1973年11月3日リリース(米国)
1980年代に「Private Eyes」「Maneater」「Kiss on My List」などの大ヒットを連発し、ポップ・デュオとして世界的な成功を収めたDaryl Hall & John Oates。その音楽的な原点をたどるうえで欠かせない作品が、1973年に発表された2ndアルバム『Abandoned Luncheonette』である。
本作は、二人のソングライティングとソウルフルなヴォーカルを軸に、フォーク、ロック、R&B、ポップスの要素を巧みに融合。後のヒット路線につながる洗練されたサウンドを感じさせながらも、まだ若き二人の試行錯誤や音楽的な幅広さが色濃く表れている。
プロデュースを手がけたのは、Atlantic Recordsを代表する名プロデューサーのArif Mardin。ニューヨークの一流セッション・ミュージシャンを起用し、二人の楽曲を豊かなアンサンブルで包み込んでいる。
ソウルとフォーク・ロックが交差する独自のサウンド
1972年のデビュー作『Whole Oats』に続いて制作された本作は、Hall & Oatesが自分たちの音楽的な方向性を確立していく重要な一枚となった。
二人の持ち味である美しいハーモニーと、Daryl Hallの伸びやかでソウルフルな歌声、John Oatesのギターを中心としたフォーク・ロック的な感覚。それらをArif Mardinが巧みにまとめ上げ、単なるポップ・アルバムにとどまらない奥行きを生み出している。
「She’s Gone」に代表される洗練されたソウル・バラードだけでなく、アコースティックな響きを生かした楽曲や、ジャズ、カントリーの要素を感じさせる曲も収録。アルバム全体を通して、二人が持つ多彩な音楽的ルーツを楽しめる内容だ。
「She’s Gone」が切り開いた成功への道
本作を代表する楽曲が「She’s Gone」である。
1973年のアルバムに収録され、翌1974年にシングルとして発表された当初は、全米チャートで大きな成功を収めるには至らなかった。しかし、TavaresによるカヴァーがR&Bチャートでヒットしたことなどを背景に、Hall & Oates自身のヴァージョンも1976年に再発売される。
その結果、全米シングル・チャートで最高7位を記録。二人にとって初期の代表的なヒット曲となり、アルバムも再び注目を集め、Billboard 200で最高33位に到達した。
当初は十分な評価を得られなかった作品が、数年後に収録曲のヒットをきっかけに再評価されるという、興味深い経緯を持っている。
収録曲
- When the Morning Comes
- Had I Known You Better Then
- Las Vegas Turnaround (The Stewardess Song)
- She’s Gone
- I’m Just a Kid (Don’t Make Me Feel Like a Man)
- Abandoned Luncheonette
- Lady Rain
- Laughing Boy
- Everytime I Look at You
主な参加ミュージシャン
- Daryl Hall:ヴォーカル、キーボード、ピアノ、マンドリン
- John Oates:ヴォーカル、ギター
- Chris Bond:ギター、メロトロン、シンセサイザー
- Hugh McCracken:ギター
- Jerry Ricks:ギター
- Gordon Edwards:ベース
- Steve Gelfand:ベース
- Bernard Purdie:ドラムス
- Rick Marotta:ドラムス、パーカッション
- Ralph MacDonald:パーカッション
- Joe Farrell:サックス、オーボエ
- Richard Tee:ピアノ
- Pat Rebillot:オルガン
- Marvin Stamm:フリューゲルホルン
- Gloria Agostini:ハープ
- John Blair:エレクトリック・ヴァイオリン
※楽曲ごとに参加ミュージシャンは異なる。上記はアルバムのクレジットに記載された主な演奏者。
プロダクション
- プロデューサー:Arif Mardin
- レコーディング:Atlantic Recording Studios、Advantage Sound Studios(ニューヨーク)
- エンジニア:Gene Paul、Jimmy Douglass、Lew Hahn、Joel Kerr
- ミキシング:Chris Bond、Jimmy Douglass、Lew Hahn、Arif Mardin
- アレンジ:Arif Mardin、Chris Bond、Daryl Hall、John Oates
代表曲 She’s Gone
アルバムのハイライトであり、Hall & Oatesの初期を代表する名曲。
印象的なエレクトリック・ピアノの響きから始まり、二人のヴォーカルが重なり合うことで、楽曲は徐々に豊かな広がりを見せていく。穏やかな歌い出しから、サビに向かって高まる感情表現、そしてソウルやR&Bの影響を感じさせるコーラスワークが実に見事だ。
Daryl Hallの伸びやかな高音とJohn Oatesの低音が生み出すハーモニーは、二人ならではの魅力そのもの。ホーンやストリングスを取り入れたアレンジも楽曲に奥行きを与えている。
後年のヒット曲に通じる洗練されたポップ・センスと、70年代のソウル・ミュージックの豊かな響きが融合した、まさに本作を象徴する一曲である。
80年代の成功へとつながる重要作
『Abandoned Luncheonette』は、Hall & Oatesが世界的なヒット・デュオへと成長する前の、音楽的な基盤を知ることができる作品だ。
本作の後、二人は1974年に『War Babies』を発表し、その後RCA Recordsへ移籍。1975年のアルバム『Daryl Hall & John Oates』、そして「Sara Smile」のヒットを経て、徐々に大きな成功をつかんでいくことになる。
80年代の華やかなポップ・サウンドを知るリスナーにとっても、本作に収められたソウルフルな歌声やアコースティックな質感は新鮮に響くはずだ。
「She’s Gone」だけでなく、アルバム全体に耳を傾けることで、Hall & Oatesというデュオが持っていた音楽的な懐の深さをあらためて実感できる。彼らのキャリアを振り返るうえで、ぜひ押さえておきたい初期の重要作である。



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