1987年11月2日リリース(米国)
5年の沈黙を破ったGeorge Harrisonのカムバック作
元The Beatles(ビートルズ)のギタリスト、George Harrison(ジョージ・ハリスン)が1987年に発表したスタジオ・アルバム『Cloud Nine』。前作『Gone Troppo』から約5年ぶりとなる本作は、Jeff Lynne(ジェフ・リン)との共同プロデュースによって制作され、George Harrisonのソロ・キャリアを代表する作品のひとつとなった。
1970年代には『All Things Must Pass』をはじめとする作品でソロ・アーティストとしての評価を確立していたGeorge Harrison。しかし、1980年代に入ると音楽活動のペースは落ち、1982年の『Gone Troppo』以降は新作アルバムの発表から遠ざかっていた。
その沈黙を破ったのが、本作『Cloud Nine』である。
プロデュースを共同で担当したのは、Electric Light Orchestra(ELO)の中心人物として知られるJeff Lynne。緻密なアレンジと明快なメロディーを持ち味とする彼の音楽性が、George Harrisonのソングライティングと結び付き、洗練されたポップ・ロック・サウンドを生み出した。
アルバムには、全米シングル・チャート1位を獲得した「Got My Mind Set on You」をはじめ、「When We Was Fab」「This Is Love」などの楽曲を収録。全米アルバム・チャートでは8位、英国では2位を記録し、George Harrisonにとって大きな商業的成功をもたらした。
Jeff Lynneとの共同プロデュースが生んだサウンド
本作の特徴は、George Harrisonの個性を生かしながら、1980年代らしいクリアで洗練されたサウンドに仕上げている点にある。
Jeff Lynneは、ELOで培った豊かな音響構成とポップなメロディーを得意としていた。彼のプロダクションは、George Harrisonのギターやボーカルを際立たせながら、楽曲に適度な厚みと推進力を与えている。
タイトル曲「Cloud 9」は、ブルースを感じさせるギター・リフと軽快なリズムが印象的なナンバー。George Harrisonらしいギター・プレイと、肩の力が抜けたボーカルが心地よく響く。
「Fish on the Sand」では、印象的なリフとリズミカルな展開が楽曲を引っ張り、「Devil’s Radio」では、社会にあふれる噂話や悪意ある言葉への批判を、軽快で力強いロック・サウンドに乗せて表現している。
一方、「Just for Today」は、内省的な歌詞と穏やかなメロディーが特徴。アルバム全体の中で、George Harrisonの精神的な一面や繊細なソングライティングを感じさせる楽曲となっている。
本作は、過度に重厚なロックへ向かうのではなく、メロディー、演奏、音響のバランスを重視した作品だ。ハードロックのような攻撃性とは異なるが、ギターを軸にしたロック・アルバムとしての魅力を十分に備えている。
「Got My Mind Set on You」がもたらした世界的ヒット
『Cloud Nine』を象徴する楽曲が、「Got My Mind Set on You」だ。
この曲はGeorge Harrisonのオリジナルではなく、Rudy Clark(ルディ・クラーク)が作曲し、James Ray(ジェームス・レイ)が1962年に発表した楽曲のカバーである。George Harrisonは原曲の持つ軽快なロックンロールの魅力を生かしながら、1980年代らしいアレンジによって新たなヒット曲へと生まれ変わらせた。
印象的なリズムと覚えやすいメロディー、George Harrisonの親しみやすいボーカルが組み合わさり、楽曲は米国のBillboard Hot 100で1位を獲得。英国でも2位に達し、世界各国で広く聴かれるヒットとなった。
ミュージック・ビデオも大きな話題を呼び、George Harrisonの久々の本格的な音楽活動を印象付けた。
興味深いのは、The Beatles時代の革新的な音楽性や、ソロ初期の精神性を前面に出した作品とは異なり、本作ではストレートなポップ・ロックの魅力が強調されていることだ。カバー曲を自身のスタイルに取り込み、幅広いリスナーに届ける手腕も、George Harrisonの音楽家としての柔軟性を示している。
「When We Was Fab」に刻まれたThe Beatlesへの回想
本作を語るうえで、もうひとつ重要なのが「When We Was Fab」だ。
George HarrisonとJeff Lynneの共作によるこの曲は、The Beatlesとして活動していた1960年代を振り返るような内容を持つ。「Fab」は「fabulous」の略語で、当時のThe Beatlesを指す表現としても使われていた。
楽曲のサウンドには、The Beatlesの中期から後期を思わせるサイケデリックな雰囲気が取り入れられている。シタールを思わせる音色や印象的なアレンジが、過去への懐かしさとユーモアを感じさせる。
ミュージック・ビデオにもThe Beatles時代を連想させる演出が盛り込まれ、George Harrisonのソロ作品でありながら、彼の音楽的な原点を振り返る楽曲となった。
ただし、単なる懐古趣味にとどまらない点も重要だ。George Harrisonは、The Beatlesという巨大な存在を背負いながらも、その過去をユーモラスに見つめ直し、現在の自分の音楽へとつなげている。
「When We Was Fab」は、The Beatlesの歴史を知るファンにとって、特に味わい深い一曲といえる。
Eric ClaptonやRingo Starrら豪華ゲストが参加
『Cloud Nine』には、George Harrisonと長年の交流を持つミュージシャンをはじめ、実力派のゲストが多数参加している。
ギターではEric Clapton(エリック・クラプトン)が参加。George Harrisonとは1960年代から深い関係を持ち、The Beatlesの「While My Guitar Gently Weeps」への参加でも知られる存在だ。
さらに、The Beatles時代の盟友Ringo Starr(リンゴ・スター)がドラムで参加。George HarrisonとRingo Starrの共演は、長年の音楽的なつながりを感じさせる。
また、Elton John(エルトン・ジョン)がピアノで参加しているほか、Jeff Lynne自身もギター、ベース、キーボードなどで演奏を支えている。Jim Keltner(ジム・ケルトナー)やRay Cooper(レイ・クーパー)といったセッション・ミュージシャンも加わり、楽曲ごとに豊かなサウンドを作り上げた。
こうしたゲスト陣は、単に豪華な顔ぶれをそろえるためのものではない。George Harrisonの楽曲を中心に、それぞれの個性と演奏力が加わることで、アルバム全体に自然な広がりが生まれている。
収録曲
- Cloud 9
- That’s What It Takes
- Fish on the Sand
- Just for Today
- This Is Love
- When We Was Fab
- Devil’s Radio
- Someplace Else
- Wreck of the Hesperus
- Breath Away from Heaven
- Got My Mind Set on You
オリジナル・アルバムには全11曲を収録。George Harrisonのオリジナル曲を中心に、Rudy Clark作曲の「Got My Mind Set on You」がアルバムを締めくくる。
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後年のCD再発盤には「Shanghai Surprise」「Zig Zag」などのボーナス・トラックが追加されたバージョンもあるが、上記はオリジナル盤の収録曲である。
参加ミュージシャン
主要メンバー・参加ミュージシャン
- George Harrison(ジョージ・ハリスン) — ボーカル、ギター、キーボードほか
- Jeff Lynne(ジェフ・リン) — ギター、ベース、キーボード、バック・ボーカルほか
- Eric Clapton(エリック・クラプトン) — ギター
- Ringo Starr(リンゴ・スター) — ドラム
- Jim Keltner(ジム・ケルトナー) — ドラム
- Ray Cooper(レイ・クーパー) — パーカッション
- Elton John(エルトン・ジョン) — ピアノ
- Gary Wright(ゲイリー・ライト) — キーボード
- Jim Horn(ジム・ホーン) — サックス
- Bobby Kok(ボビー・コック) — チェロ
制作スタッフ
- George Harrison — プロデューサー
- Jeff Lynne — プロデューサー
- Richard Dodd(リチャード・ドッド) — エンジニア、マスタリング
※参加楽器や担当パートは曲によって異なる。上記はアルバムのクレジット資料に基づく主な参加者であり、すべての曲に全員が参加しているわけではない。
作品情報
- アーティスト: George Harrison(ジョージ・ハリスン)
- アルバム: 『Cloud Nine』
- 邦題: 『クラウド・ナイン』
- リリース日: 1987年11月2日(米国)
- レーベル: Dark Horse Records
- プロデューサー: George Harrison、Jeff Lynne
- 録音スタジオ: F.P.S.H.O.T.(Friar Park Studio、英国)
- 収録曲数: 11曲(オリジナル盤)
- ジャンル: ポップ・ロック、アルバム・ロック
- 全米アルバム・チャート: 最高8位
- 全英アルバム・チャート: 最高2位
代表曲 Got My Mind Set on You
『Cloud Nine』を代表する大ヒット曲。George Harrisonのソロ・キャリアを語るうえで欠かせない一曲であり、1980年代後半のポップ・ロックを象徴する楽曲のひとつだ。
原曲はRudy Clarkが作曲し、James Rayが1962年に発表したもの。George Harrisonはこの曲を取り上げ、Jeff Lynneとの共同プロデュースによって、明快で躍動感のあるサウンドに仕上げた。
軽快なリズムとキャッチーなメロディーに、George Harrisonの親しみやすいボーカルがよく合っている。ギターを中心としたロックの感触を残しながら、ポップスとしての完成度も高く、幅広いリスナーに受け入れられた。
この曲は米国Billboard Hot 100で1位を獲得し、George Harrisonにとって大きなカムバックを象徴するヒットとなった。The Beatles時代から長年にわたり音楽活動を続けてきた彼が、1980年代の音楽シーンでも強い存在感を発揮できることを示した作品でもある。
『Cloud Nine』は、George Harrisonのソングライターとしての魅力と、Jeff Lynneの洗練されたプロダクションが結び付いたアルバムだ。「Got My Mind Set on You」は、その方向性を最も分かりやすく体現した一曲といえる。



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