Grateful Dead『Europe ’72』

アルバム

1972年11月5日リリース(米国)

1972年発表 3枚組のライブ・アルバム

『Europe ’72』は、アメリカのロック・バンド、グレイトフル・デッドが1972年に発表した3枚組のライブ・アルバムである。

本作は、1972年4月から5月にかけて行われたヨーロッパ・ツアーの演奏を収録した作品だ。このツアーでは、イギリス、フランス、ドイツ、オランダ、デンマーク、ルクセンブルクなどを巡り、バンドは各地でライブを行った。

収録曲は、ロンドンのライシアム・シアター、パリのオランピア劇場、アムステルダムのコンセルトヘボウ、コペンハーゲンのチボリ・コンサートホールなど、複数の会場で録音された演奏から選ばれている。

グレイトフル・デッドのライブは、スタジオ録音を忠実に再現することよりも、その場で生まれる演奏の流れや即興性を重視するスタイルが特徴だった。本作でも、ブルース、カントリー、フォーク、サイケデリック・ロックなどを自在に取り込んだ演奏が展開されている。

また、1972年のツアーは、キーボードにキース・ゴッドショウが加わり、妻のドナ・ゴッドショウもバック・ボーカルで参加した新たな編成によるものだった。さらに、バンドの初期から重要な役割を担ってきたロン・“ピッグペン”・マッカーナンにとっては、最後の大規模なヨーロッパ・ツアーとなった。

3枚組という大作ながら、楽曲ごとに異なる音楽性と長尺の演奏を楽しめる本作は、グレイトフル・デッドのライブ・バンドとしての魅力を伝える代表的な作品である。

ジャンルにとらわれない幅広い音楽性と、メンバー同士の自由な掛け合い

本作の最大の魅力は、ジャンルにとらわれない幅広い音楽性と、メンバー同士の自由な掛け合いにある。

ジェリー・ガルシアのリード・ギターは、ブルースを基盤としながら、流麗なフレーズや即興的な展開を繰り広げる。ボブ・ウィアーのリズム・ギターは、単純なコード伴奏にとどまらず、独特のリズムや和音の響きによって演奏に奥行きを与えている。

フィル・レッシュのベースも、一般的なロックのベースとは異なる自由な動きが特徴だ。ギターやドラムに合わせてルート音を刻むだけでなく、独立した旋律を奏でるように動き、バンド全体の演奏に独特の流動性をもたらしている。

ビル・クルーツマンのドラムは、演奏の土台を支えながらも、即興的な展開に柔軟に対応する。キース・ゴッドショウのピアノが加わることで、カントリーやジャズの要素も自然に溶け込んでいる。

さらに、ロン・“ピッグペン”・マッカーナンのオルガンやハーモニカ、ドナ・ゴッドショウのバック・ボーカルが加わり、楽曲ごとに異なる表情を生み出している。

本作では、スタジオ録音のように演奏を均一に整えるのではなく、ライブならではの揺らぎや即興性を生かしている。長い演奏の中でメンバーが互いのフレーズに反応しながら音楽を発展させていく様子が、アルバム全体から伝わってくる。

バンドの音楽的な個性とアメリカ的な旅の感覚を象徴『Truckin’』

「Truckin’」は、グレイトフル・デッドを代表する楽曲のひとつであり、バンドの音楽的な個性とアメリカ的な旅の感覚を象徴するナンバーである。

オリジナルは1970年のアルバム『American Beauty』に収録された楽曲で、ジェリー・ガルシア、ボブ・ウィアー、フィル・レッシュが作曲に参加し、ロバート・ハンターが歌詞を手掛けた。

軽快なリズムと親しみやすいメロディを持ちながら、歌詞には旅の途中で経験する出来事や、人生の浮き沈みが描かれている。アメリカ各地を移動しながら活動を続けてきたバンド自身の姿とも重なる内容だ。

本作に収録されたバージョンは、1972年5月26日のロンドン、ライシアム・シアターでの演奏を収録したもの。スタジオ版よりも長い演奏となっており、楽曲の後半ではメンバーの即興的な掛け合いが展開される。

特に印象的なのは、演奏が「Epilogue」へとつながっていく構成だ。さらに「Prelude」「Morning Dew」へと続くアルバム終盤の流れは、単独の楽曲を並べただけではない、ライブ作品ならではのドラマを生み出している。

参加ミュージシャン

  • Lead Guitar, Vocals: Jerry Garcia
  • Rhythm Guitar, Vocals: Bob Weir
  • Bass, Vocals: Phil Lesh
  • Organ, Harmonica, Vocals: Ron “Pigpen” McKernan
  • Piano: Keith Godchaux
  • Drums: Bill Kreutzmann
  • Backing Vocals: Donna Godchaux

本作は、ジェリー・ガルシア、ボブ・ウィアー、フィル・レッシュ、ロン・“ピッグペン”・マッカーナン、ビル・クルーツマンという結成以来の中心メンバーに、キース・ゴッドショウとドナ・ゴッドショウが加わった編成で録音されている。

キースのピアノは、従来のバンド・サウンドに新たな音楽的広がりをもたらした。ドナのバック・ボーカルも、コーラスを重ねることで楽曲に厚みを加えている。

ロン・“ピッグペン”・マッカーナンは、オルガンやハーモニカ、ボーカルを担当。ブルースやR&Bの要素をバンドに持ち込む重要な存在だった。1972年のヨーロッパ・ツアーは、彼にとって最後の大規模なツアーとなった。

制作クレジット

  • Producer: Grateful Dead
  • Recording: Betty Cantor、Bob Matthews、Jim Furman、Rosie、Wizard ほか
  • Mixing: Betty Cantor、Bob Matthews、Grateful Dead
  • Recording Location: ヨーロッパ各地のコンサート会場
  • Mixing Studio: Alembic Studios(サンフランシスコ)
  • Label: Warner Bros. Records

録音は、バンドのツアーに同行した録音チームによって行われた。複数の会場で収録された演奏を選び、サンフランシスコのAlembic Studiosでミックス。バンド自身も制作に関わり、ライブの空気感を生かした作品に仕上げている。

本作の録音に使用された主な会場と日付は以下のとおり。

  • 1972年4月8日: Empire Pool(ウェンブリー/ロンドン)
  • 1972年4月14日: Tivolis Koncertsal(コペンハーゲン)
  • 1972年5月3日: Olympia Theatre(パリ)
  • 1972年5月10日: Concertgebouw(アムステルダム)
  • 1972年5月23日〜26日: Lyceum Theatre(ロンドン)

これらの公演から選ばれた演奏が、3枚組のアルバムとして構成されている。

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収録曲

Side One

  1. Cumberland Blues
  2. He’s Gone
  3. One More Saturday Night

Side Two

  1. Jack Straw
  2. You Win Again
  3. China Cat Sunflower
  4. I Know You Rider

Side Three

  1. Brown Eyed Women
  2. Hurts Me Too
  3. Ramble On Rose

Side Four

  1. Sugar Magnolia
  2. Mr. Charlie
  3. Tennessee Jed

Side Five

  1. Truckin’
  2. Epilogue

Side Six

  1. Prelude
  2. Morning Dew

全17曲を収録。3枚のLPにわたって、ブルースやカントリーを基盤とした楽曲から、サイケデリックな即興演奏まで、バンドの幅広い音楽性が展開されている。

なお、2003年のCD再発盤などには追加収録曲があるが、ここでは1972年発売のオリジナル3枚組LPの内容に限定している。

グレイトフル・デッドのライブ・バンドとしての魅力を存分に味わえるアルバム

『Europe ’72』は、グレイトフル・デッドのライブ・バンドとしての魅力を存分に味わえる、1970年代を代表するライブ・アルバムのひとつである。

ブルース、カントリー、フォーク、ロック、サイケデリック・ミュージックを自在に行き来する演奏は、単なるジャンルの融合にとどまらない。メンバー同士の即興的なやり取りによって、楽曲がライブの中で新たな表情を見せていく。

また、キース・ゴッドショウとドナ・ゴッドショウが加わった編成の充実ぶりや、ロン・“ピッグペン”・マッカーナンが参加した時期の記録としても重要な意味を持つ。

3枚組という大作でありながら、収録曲の一つひとつに異なる魅力があり、アルバム全体を通して聴くことで、当時のグレイトフル・デッドが持っていた自由な音楽性とライブの熱気を感じることができる。

アメリカン・ロックの歴史において、ライブ演奏の可能性を大きく広げたバンドの姿を伝える、欠かすことのできない作品である。

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