1983年11月1日リリース(英国・米国)
作品概要
「Undercover of the Night」は、イギリスのロック・バンド、ザ・ローリング・ストーンズが1983年に発表したシングルである。同年11月にリリースされたスタジオ・アルバム『Undercover』からの先行シングルで、作詞・作曲はミック・ジャガーとキース・リチャーズ。
ストーンズの楽曲としては異色ともいえる、政治的なテーマを正面から扱った作品だ。歌詞では、南米の軍事政権下で起きていた政治的弾圧、誘拐、失踪、暴力などを背景に、恐怖と抑圧に支配された社会を描いている。
サウンド面では、従来のブルースを基調としたロックンロールとは異なり、ファンクやニューウェイヴ、ダンス・ミュージックの要素を取り入れている。重く反復するリズムと独特のパーカッションが生み出す緊張感は、1980年代のストーンズが新しい音楽表現を模索していたことを象徴している。
米国Billboard Hot 100では最高9位、英国シングル・チャートでは最高11位を記録。ストーンズの1980年代を代表するシングルの一つとなった。
サウンドと音楽的特徴
「Undercover of the Night」の最大の特徴は、ファンクを取り入れた独特のリズムと、緊迫感のあるサウンドにある。
冒頭から印象的なパーカッションとドラムが楽曲を牽引し、反復するベース・ラインとギターが不穏な雰囲気を作り出す。一般的なストーンズのロックンロールとは異なる、硬質でダンサブルなグルーヴが全編を支えている。
特に注目したいのは、レゲエ/ダブの分野で知られるスライ・ダンバーとロビー・シェイクスピアの参加だ。スライ・ダンバーのパーカッシヴなドラム・アプローチと、ロビー・シェイクスピアのベースが、楽曲に独特のリズム感をもたらしている。
ミック・ジャガーのヴォーカルは、物語を語るような緊張感を持ち、キース・リチャーズとロン・ウッドのギターも、従来のブルース・ロック的な掛け合いとは異なる役割を果たしている。
また、12インチ・シングルにはダブ・バージョンも収録され、当時のクラブ・ミュージックやダンス・ミュージックへの接近も感じさせる。
歌詞の背景と歴史的意義
この曲の歌詞は、1980年代初頭の中南米で深刻化していた政治的弾圧や人権侵害を題材としている。
ミック・ジャガーは、1993年発売のベスト・アルバム『Jump Back』のライナーノーツで、この曲がウィリアム・S・バロウズの小説『Cities of the Red Night』から影響を受けたことを明かしている。アルゼンチンやチリで起きていた政治的・性的抑圧など、当時の社会状況を複合的に反映した作品だと説明している。
また、1983年のインタビューでは、ジャガー自身がこの曲を「政治的であり、同時にファンタジーでもある」と語っている。特定の国や事件をそのまま描くのではなく、現実の出来事から着想を得て、恐怖と暴力に支配された社会を音楽で表現したものといえる。
当時のストーンズは、政治的なメッセージを前面に押し出すことが多いバンドではなかった。その意味でも、本作は彼らのキャリアの中で異彩を放つ楽曲だ。
ミュージック・ビデオ
本作のミュージック・ビデオは、映画監督ジュリアン・テンプルが手掛けた短編映画のような作品である。
メキシコシティで撮影された映像では、ミック・ジャガーが事件を追う刑事役を演じ、キース・リチャーズは誘拐組織のリーダーとして登場する。政治的な暴力や誘拐を描いた歌詞の世界を、ドラマ仕立ての映像で表現している。
映像には銃撃や殺害などの過激な描写が含まれており、当時MTVでは編集版が放送されるなど、その暴力表現も話題となった。
単なる演奏シーンを中心としたミュージック・ビデオではなく、楽曲のテーマを映像作品として掘り下げた点でも、1980年代のストーンズを象徴する作品の一つといえる。
シングル収録曲
7インチ・シングル
- A面:Undercover of the Night
- B面:All the Way Down
12インチ・シングル
- A面:Undercover of the Night(Dub Version)
- B面:Feel On Baby(Instrumental Dub)
※12インチ盤には、国や仕様によってExtended Versionなどの表記違いがある。
参加ミュージシャン
The Rolling Stones
- Mick Jagger(ミック・ジャガー) – Vocals
- Keith Richards(キース・リチャーズ) – Guitar, Backing Vocals
- Ron Wood(ロン・ウッド) – Guitar, Backing Vocals
- Bill Wyman(ビル・ワイマン) – Bass
- Charlie Watts(チャーリー・ワッツ) – Drums
Additional Musicians
- Robbie Shakespeare(ロビー・シェイクスピア) – Bass(別テイク/録音バージョンによる参加)
- Sly Dunbar(スライ・ダンバー) – Drums, Percussion
- Chuck Leavell(チャック・リーヴェル) – Keyboards
- Martin Ditcham(マーティン・ディッチャム) – Percussion
- Moustapha Cissé(ムスタファ・シセ) – Percussion
- Brahms Coundoul(ブラームス・クンドゥール) – Percussion
※本曲には複数の録音バージョンが存在し、ベースなどの参加クレジットには資料による違いがある。上記は確認できる主な参加者をまとめたもの。
作品情報
- アーティスト:The Rolling Stones
- シングル:Undercover of the Night
- リリース:1983年11月1日
- レーベル:Rolling Stones Records
- 7インチ・シングル品番:RSR 113(英国)/7-99813(米国)
- 12インチ・シングル品番:12 RSR 113(英国)/0-96978(米国)
- 作詞・作曲:Mick Jagger、Keith Richards
- プロデューサー:The Glimmer Twins、Chris Kimsey
- 録音:Pathé-Marconi Studios(フランス・パリ)、Compass Point Studios(バハマ・ナッソー)、The Hit Factory(米国・ニューヨーク)
- 収録アルバム:『Undercover』(1983年)
- 全米Billboard Hot 100:最高9位
- 全英シングル・チャート:最高11位
代表曲 Undercover of the Night
この曲は、1980年代のローリング・ストーンズが持っていた実験精神と、社会に対する鋭い視線を象徴する一曲である。
政治的な抑圧や暴力を題材にした歌詞は、当時の中南米の状況を背景にしており、単なる恋愛やロックンロールの枠を超えたメッセージを持っている。
一方で、音楽面ではファンクやダブの要素を取り入れた独特のグルーヴが印象的だ。スライ・ダンバーとロビー・シェイクスピアらのリズム・セクションが生み出す緊張感は、ストーンズの新たな一面を引き出している。
ミック・ジャガーとキース・リチャーズの関係が難しい時期に制作されたアルバム『Undercover』の冒頭を飾る楽曲でもあり、バンド内部の緊張感や時代の空気が作品に反映されているようにも感じられる。
ブルースを基盤とした従来のストーンズ・サウンドとは異なる方向へ踏み出した、1980年代の重要な一曲として聴いておきたい。



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